ご近所のスーパーおじいちゃん、
Kさん。
昭和6年生まれ、
94歳。
45年前まで道南の駅前で食堂を経営。
配線と同時に職を求めて札幌へ。
それから1級建築士の免許を取り、
宮大工も。
このあたりのお屋敷みたいな立派なお家は、
どれもかつてKさんが建てたもの。
92歳の奥さんのお世話をしながら二人暮らし。
ちなみに奥さんは2級建築士の免許を持っているそう。
なんでも自分でやってしまう
スーパーおじいちゃん。
そんなKさんからいよいよ
ラーメンスープの作り方を教わることに。
決行日は、
あの鍋探しの旅から3日後。
とは言え、
鍋を見せに行ったらいきなり作り方の説明が始まり、
ちょうど持っていた紙に必死でメモ。
耳の遠いKさんに言いたいことを筆談で伝えようと
たまたま持って行ったのでした。
Kさんは決行当日、
わが家に途中から様子を見にきてくれるらしく、
そこまでは一人でやってみることに。
まずは前日、
お鍋いっぱいに水を張り、
豚骨と鶏ガラを入れ、
血抜き。
一晩放置。
翌朝、
新しい水に替え、
玉ねぎ1個、
にんじん1本、
チャーシュー用の豚ブロックを入れました。
朝6時、薪ストーブ点火。
点火と同時に鍋を乗せました。
アクを取りながら、
水は足し足し、
ゆっくりコトコト煮ます。
その間犬の散歩に出かけたり、
家仕事を済ませたり、
Kさんほんとに来てくれるのかな?と心配したり。
煮込み始めて4時間がたった頃、
ピンポーン無しでいきなり家のドアノブガチャガチャ。
無事Kさん来訪。
ラーメンスープ作りに関していろいろ聞きたいこと山積みでしたが、
初めてわが家を訪れたKさんの心はすっかり家に持っていかれ、
これはなんだ?
どうしてこういう作りにしたんだ?
と質問の嵐。
強度を確かめているのかあっちこっちの壁をドンドン。
Kさーーーんっ、
とりあえずまずラーメンスープ見てもらえませんかーーー!
という心の声は飲み込み、
1級建築士のKさんに興味を持ってもらえるなんてなんだか嬉しくなり、
私もラーメンスープのことは忘れ、
おうちの話で盛り上がりました。
外の雑音が聞こえにくい静かなお家の中にいると、
よく声も届き会話も成立します。
「いい家だな」
最高の褒め言葉をいただきました。
室内家庭菜園コーナーを見て、
「ちゃんと暮らしてるな」
なんだか思いが通じた気がして、
めちゃくちゃうれしい。
ふと、姿見に写ったぼんな(柴犬)を見て、
「おう、犬2匹飼ってんのか?」
「Kさん、それ鏡です」
「あ、鏡か」
笑うKさん。
その1分後、
「あれ?薪ストーブふたつ置いてんのか?」
「Kさん、それ鏡です」
「あ、鏡か」
爆笑。
大丈夫です。
Kさんはまだボケてはいませんから。
ボケただけです。
おそらく。
3度目はありませんでしたから。
3度目ほしかったですけど。
そしてようやくラーメンスープを思い出していただき、
鍋をのぞき込むなり
「火が強すぎる」
慌てて火力を弱める。
そのとき薪ストーブの温度計は200℃。
感覚的に120〜150℃くらいが良かったのかな。
ここはゆっくり研究します。
アクを取るとき、
なんとなくかき混ぜてしまったら
「かき混ぜたらダメだ」
動かしてはいけないとのことでした。
そして、
「チャーシューはそんなに煮込んだらダメだ」
「火が通ったらもう上げていい」
慌ててチャーシューを取り出す。
もう4時間以上煮込んでますけど。
Kさんに教えてもらいながら、
チャーシューを切り、
醤油とにんにく麹で味付け。
Kさんは醤油とニンニクをすりおろして混ぜるだけ、
とおっしゃっていました。
あとは筍の水煮をスライス。
味付けは無し、そのまま。
ゆで卵とネギはあらかぎめ自分で準備。
キッチンからのリビングの風景。
あまりに素敵な光景で、
思わず隠し撮りしてしまいました。
5時間ほど煮込んだところで、
「そろそろ下ろして味付けするか」
ということで、
Kさんに見守られながら塩を少しずつ足していく。
「塩は絶対天然のものじゃないとダメだぞ」
今回は大好きな岩塩で。
Kさんのストップ!を待つため、
Kさんの顔ばかり見ていたので
どれぐらい入れたのか不明。
味を見ながら少しずつ。
スープを濾すのが面倒だったら、
静かに上を掬えばいいとのことでしたが、
せっかくなのでサラシで濾しました。
そう言えば、
わが家にはラーメンどんぶりが無く、
Kさんに借りる予定でいました。
昔食堂で使っていたラーメン丼を大量に持っています。
が、借りるのをすっかり忘れていました・・・
Kさんの家は近いとはいえ、
Kさんに往復させるのは忍びなく、
鍋をいただいたお向かいの奥さまMさんに相談。
「あるよ!」とのことで、
ラーメンどんぶり3つ持って遊びにきてもらいました。
麺を茹でた後はMさんの協力を得て、
素早く盛り付け。
完成です。
どうでしょう。
お店出せそうでしょうか?
「うん、うまい」
Kさんの合格、いただきました。
「お店出せるね」
「お店みたいな家だから、ここでラーメン屋やったらいいよ」
Mさんの合格、いただきました。
自分でも美味しかったんですよね、
どこかで食べた普通のラーメンだったんですよね。
次はどうかわかりませんが。
食べ終わって、
Mさんにこっそり聞かれました。
目の前にKさんいますけど。
「そういえばコンソメはどうしたの?」
「入れたくなかったので隠しました。」
コンソメを買うとき、
Kさんに聞いたんですよね。
「こんなにたくさん入っているのじゃなきゃダメなんですか?」って。
「こっちの小さいやつじゃダメなんですか?」って。
「すぐになくなるから大きいのじゃないとダメだ」ゆうてました。
コンソメって手軽にそれっぽい味を出せるやつじゃないですか。
(個人の感想です)
Kさんのことなのでドバドバ入れないと思うんですよね。
やっぱり私ラーメン屋開業するとでも?
これから日々何十人分も作り続けるとでも?
するとMさんがKさんに尋ねます。
「コンソメ、入れなくてもいいの?」
Kさん、
「入れなくてもいい」
Mさん、
「入れたらどうなるの?」
Kさん、
「入れたら味が変わる」
Mさん、
「入れたらどういう味になるの?」
Kさん、
「コンソメの味になる」
そのあとも化学調味料の話が続きましたが、
必ずしも入れる必要はなかったようです。
そして、
もう一つの謎、
あのオリーブオイルはなんだったのか?
なんとなく聞かなくていい気がして、
忘れることにしました。
余談ですが、
3人分の量の麺を茹で、
私1.2人分:Kさん0.9人分:Mさん0.9人分
ぐらいの比率で盛り付けたあと、
Mさんは自分の体調を考慮して、
自分の分は0.1人前だけ残し、
私とKさんが同じ量になるよう
せっせと麺だけ移していました。
つまり、
食べた麺の量は、
私1.45人分:Kさん1.45人分:Mさん0.1人分
Kさん、
なんと約1.5人分を平らげたのです。
「多いな・・・」
とぼそっと言ったKさんの一言で、
Mさんと思い返して気づきました。
1.5人前のラーメンを平らげた94歳。
どんだけスーパーロージンなんでしょう。
ちなみに、
直径30㎝のアルミ鍋で作った
今回のラーメンスープの量は、
12人前でした。
KさんとMさんに無理やり2人前ずつスープを持ち帰らせ、
そのあと5日間ラーメンを食べ続けました。
主人は長期出張中だったもので。