今シーズンは根雪はまあまあ早かったのですが、
年が明けてからは暖かく雪も降らない日が続きました。
除雪も雪遊びもできないまま悶々として過ごしていました。
10日ほど前、
もうこれ以上積もらないなら今しかない、
そう決意してイグルーに取りかかりました。
朝9時、
スノーシューで雪を踏み固め、
角スコップで雪を掘りブロックを作っていく作戦。

「うーん、なんだか思ったのと雪質が違う。」
この方法ではうまくいかない、
すぐに思いました。
気温が高い日が多く、
雨が何度か降ったりもしていたので、
もう少し湿度のあるまとまりやすい雪かと思っていました。
でも、もう少しやってみます。
やはり小さめの雪ブロックしか作ることができず、
1段目は20個ほど並べて完成。

雪ブロックを量産できない気配がむんむん漂っています。
雪ブロックに角が立たない、
つまりかなり脆い。
このまま突き進むべきか、
それとも方法を変えるべきか。
1時間も経たないうちに早くも行き詰まりました。
無理に続ければ続けるほど、
引き返すのが難しくなる。
成功は難しいとわかっていながらも、
やればやるほど引き返せなくなります。
そんなときは一度離れる。
もしイグルーが完成したら、
このイグルーの中で食べたいな、
行きつけの精肉店のお惣菜が頭に浮かび、
買い物に出かけることにしました。
車を運転しながらも頭の中はイグルー。
道具を増やしたくない。
新たにモノを買いたくない。
でも、そのこだわりは今回必要か?
イグルーを完成させるために絶対必要なこだわりか?
自問自答を繰り返しました。
今回のゴールは、
イグルーを完成させること。
ただそれだけ。
そのまま100円ショップへ向かい、
収納ボックスを購入しました。

結果的に、
これは大成功でした。
この判断が今回の成功につながっています。
早めの昼食をとって12時に作業再開。
適度な湿度のある雪を入れ、
じわーっじわーっと両手で優しく押し固めます。

おもしろいくらい簡単に雪ブロックができあがっていきます。

今回の雪は表面に多少のヒビが見えても、
崩れない頑丈な雪質でした。
もう少し湿度が低ければこのヒビは簡単に崩壊につながります。

なるほどね、
この雪質と天候の場合はやっぱりボックスかあ。
またひとついい経験ができました。
1メートルほど雪が積もっている場所に作っているので、
今回は雪ブロックの数を少しでも少なく済ませるために、
下にも雪を掘り下げて空間を確保。
半地下構造のイグルーを目指しました。
ということで、
早くも2段目からブロックを傾け始めました。

ここからが非常におもしろくなります。
どんどん難しくなっていきます。
ものすごく集中力を使い、
ものすごく神経を使い、
時々白目むいて
「わたし何やってるんだろう」
って何度も訳がわからなくなります。
一体わたしは今、
何のためにこんな思いまでして
イグルーを作っているのか。
答えはよく分かりませんがとりあえず進みます。
真上にブロックを重ねるのは難しいことはありませんが、
圧雪したそれなりの重さの雪ブロックを
重力に逆らって斜めの雪面に斜めにくっつける。
簡単ではありませんが、
でもくっ付くんですよね。
受けるブロックと新たに載せるブロック両方の雪面に
スノーソーで軽く傷をつけます。
するとその傷が接着剤のようになって
ぴたーーーってくっ付くんです。
ブロックを支える手にそれがよく伝わってきます。
私の手から重さがすーっと消えていくのです。

イヌイットの人たちはそれだけでピタッと合わせています。
でもわたしは技術がまだまだ未熟。
その域には達していません。
パウダー上の雪を追加接着剤として、
合わせたブロックとブロックの境のラインに沿って、
横からそーっと撫でます。
雪を拾い、
力を伝えないようにその雪で撫でます。
そうすると、
その撫でた雪が補強剤となって、
ブロックとブロックの接着を支えてくれます。
気を付けなければならないのは、
力で何とかしようとすること。
早くくっ付いてほしいと思い、
意識しないとすぐ力が入っちゃうんですよね、
ついつい。
力を加えたらすぐに外れてしまいます。
もう一度雪面に傷をつけるところからやり直しです。
やり直すたびにブロックが削れ小さくなっていくので、
できるだけ一発で決めたほうがいいです。
その慎重な作業を何十回と繰り返すので、
どんどん体力も気力も奪われ、
最後は魂抜けそうになります。
ヘロヘロです。
だんだんぼーっとしてきます。
そしていつもやらかします。
雪ブロックは柔らかい雪から作らないと、
雪の硬い塊がひび割れの原因になります。
そのため、
せっせとイグルーの外へ出て柔らかい雪を選び、
ボックスに詰めて固め、
またそれを持ってイグルーの内側に戻ってきます。
イグルーはブロックを傾け始めたら、
内側から支えるように持って重ねていかなければなりません。
イグルーの外に出たり入ったりを最後まで繰り返します。
疲れてくるとだんだん足が上がらなくなってきて、
気を抜くと引っかかります。
せっかく作った壁を壊してしまうのです。
「あーまたやっちゃったー」

2段目が4つ外れました。
でも4つで済みました。
しかもブロックがそんなに崩れずに
綺麗な形のまま下に落ちて残ってくれました。
奇跡に近いです。
とはいえ、4つ。
雪を集めてブロックを作り、
慎重に重ねてくっ付けるところまで、
今回は1個につき約5分。
4つで20分かあ。
もうこの時で夕方の4時でしたから、
この日のイグルー完成は諦めることにしました。
壊してしまった4ブロックを修復しましたが、
やはり付け直すと小さくなり隙間が。

隙間に合わせて小さなブロックを作りハメました。
まあ、問題ないでしょう。

なんとか修復しましたが、
もう跨いで出入りするのは危険と判断し、
出入り口を掘ってしまうことにしました。
雪を掘る、
掘った雪をイグルーの外に出す、
そしてまた掘る、
雪を外に出す。

掘り進めるのに夢中になるのも危険です。
踏み固まった雪を掘るのにはパワーが入ります。
体やスコップがイグルーに当たり、
そのパワーで壊してしまわないようかなり気を使います。
狭い空間で窮屈な格好で掘り進めていきます。
1時間かかってなんとか出入り口貫通。

いつも休憩する時やその日の作業が終わった時、
イグルーの中に寝転んで空を見上げます。

未完成のイグルーに寝転んで空を眺めるのが好きです。
ブロックが重なっていくにつれて空が小さくなっていき、
完全に閉じた時を想像してわくわくします。
続きは翌日に持ち越すことにしました。
何度も挫折を繰り返してきましたが、
このイグルーはちゃんとゴールできる、
そう確信に変わりました。
では続きはまた。